第212回放送『MTをもう一度見直しスローエイジング 』
第212回
『 MTをもう一度見直しスローエイジング 』
岩貞:今日はゲストコメンテーターをお迎えしております。現役最年長ドライバー56歳、そしてモータージャーナリスト、さらに僧侶でもある松田秀士さんにお越しいただきました。
松田:よろしくお願いします。実家が浄土真宗のお寺でして、龍谷大学、文学部の仏教学科を卒業しました。
岩貞:松田さんにはキャッチがあるそうですね。
松田:はい。お浄土までぶっ飛ばせ! というのがあります。
岩貞:素敵!(笑)これはどういう意味で?
松田:クルマが大好きで、レースを初め、それが高じてモータージャーナリストもやっているのですが、レースをはじめたときに思ったことですけど、自分の好きな趣味、クルマを運転するということを最後の瞬間までしっかり元気に運転できる自分でいたい。だからお浄土までぶっ飛ばすつもりで頑張って生き抜こうということです。ボクの場合は好きなことがクルマの運転ですが、例えば、それが他の趣味がある人はテニスでもいいし、盆栽でもいい、庭いじりでもなんでもいいです。でもしっかりその好きなことをするには、元気な自分でなければいけませんよね。そういうのがぶっ飛ばせ! なんですよ。
岩貞:松田さんはレーシングドライバーの中でもものすごく健康のことを考えていらっしゃいますので、今日は、そのあたりのことを中心にお話を伺いたいと思います。
松田:はい、講演もやらせてもらっています。
岩貞:最年長プロドライバーということで、レースにはシニアがないのでどうですか。
松田:ないですね。若い人たち、それこそ19、ハタチの若い連中とバトルしなければいけないわけですよね。それはそれで張り合いにもなるんですけど、そのためにも自分をきちんと創っていく、それが大事なんですよね。ただ、そのために一生懸命トレーニングする、これは大事なことなんだけども、トレーニングという意識でやっているとストレスがたまるので、そうじゃない、普段できることをコツコツやっていきながら基礎をまず作っておいて、そのうえに一段階あがったところでトレーニングをするというように、段階を経てやっていければいいですよね。ボク自身その効果を、年をとるにしたがって凄く感じていますよね。
岩貞:リスナーの方には大変個人的な話で申し訳ないんですけど、松田さんのその見目・形というのが私の好みにバッチリで(笑)
松田:ありがとうございます(笑)
岩貞:ほんとうに56歳とは思えない、年上の方にこう言っては大変申し訳ないんですけど、カワイイ感じがして、それがやはり、松田さんの日々の積み重ねなわけですよね?
松田:そうなんでしょうね(笑) ボクはレースを28歳からはじめたんですよ。遅かったんです。そこからプロになるなんて普通は考えられない。でも28歳のとき、すでに19歳やハタチの人たちとバトルをしなければならない。で、そこで何をするべきかを凄く考えて、コツコツ積み重ねてきたことが今、ここにあるんですが。実は2000年のとき、今から11年前にインディで大クラッシュをして、とてもひどい怪我をしたんです。で、これでもう自分はレースをするのは終りかなって思ったんですが、でも、まだまだ、走りたい、生活のためにも走りたい、そこからもっと真剣になってスローエイジングというものを考え始めました。
岩貞:アンチエイジングではなくスローエイジング?
松田:ハイ。加齢っていうのは自然と絶対に起きることですから。それにアンチエイジングは薬などを使うなどして加齢を止めるとか逆行するというニュアンスがあると思うんですけど、僕がいっているスローエイジングというのは、加齢するスピード遅くしましょうよ。それを日々の行いとちょっとしたトレーニングをしましょう、みたいなことなんですね。
岩貞:確かに今、高齢化社会で70代、80代でも運転される方は大勢いるんですが、中でも普通に運転されている方と、この方ちょっと大丈夫かな? という方と大きく分かれますよね?
松田:分かれますね。よくあるのがブレーキとアクセルの踏み間違い事故というのがありますよね。これはシートポジションが悪いんですね。骨盤の上にのっかっていないとどんなスポーツもできないんです。
岩貞:骨盤?
松田:例えば、座っているときにそのまま立ってくださいと言われて、そのまま立てる人は骨盤に乗っている人なんですよ。でも、立てない人は、一旦骨盤の上に体重を乗せて、それからやっと立ち上がるんです。
岩貞:ツーアクション
松田:この骨盤の上に乗っているというのがとても大事で、野球の選手が守備についているときに、ちょっと中腰になりますよね。あれが骨盤に乗っている姿勢なんです。そうすると、ボールが飛んできたときにすぐに動けるんですよ。それと同じでドライビングもその姿勢をとっているというのが凄く大事なんですね。
岩貞:なるほど。クルマの中って、お部屋の中ぐらいの感覚でダランとしがちですが、やっぱりもう少し能動的にやっていかないと。
松田:生きることもそうなんだけど、クルマの運転もスポーツですよ、これもモータースポーツですよという考え方もあるので、もっと深く追求していくと生きることも、じつはスポーツですよねって。
岩貞:なるほど。
松田:しっかり生きているわけですから。例えば、スポーツというと心臓の鼓動が速くなったり、脈拍が速くなったりとかいろんなホルモンが出てきたりとか、いろいろあるんですが、生きることだけでも心臓は動いているし、いろんなホルモンも分泌している。そこに着目して、そういうものをもっと研究して、自分をもっと強くできる方法ってないですかね?っていうことを考えているんですね。
岩貞:レース走りながらそんなこと考えているんですか?(笑)
松田:(笑)イヤイヤ。でも、呼吸法とかで、ここで鼻から息を吸ってみようとか、もっと鼻から息を吸うのを強くしてみようとか、吐く息に集中してみようとか。
岩貞:吸うんじゃなくて、吐くと今度は吸いやすくなる。
松田:自然になるわけです。よくあがっちゃう人っていますよね。これは簡単で、あと、夏場など階段を登るのがつらい人がいますよね。そういうときは息を吸うことよりも、吐くことに集中してください。
岩貞:わかりました。それで、松田さんはスローエイジングのひとつとしてマニュアルミッション車がいいと。
松田:ハイ、今のクルマはATとかDCTとか2ペダルで楽に運転できるようになっています。これは、ひとつには技術の進歩があって、凄くいいことだと思うんですが、楽になるってイコールさぼることですよね?
岩貞:ハイ(笑)
松田:みなさん、最近はマラソンをしたり身体を動かすことに目覚めていますが。だから自転車で通勤しようとか、ひと駅手前から歩いてみようとか。でもクルマの世界だけ凄く逆行していると思うんですね。それでMTになれば、左足も動かしますよね。僕らレーシングドライバーは左足でブレーキを踏んだりするんですが、普通はそんなことはしないはずなので。で、普通はクラッチを踏むという動作で左足を動かす。それとアクセルとのタイミング、それとギヤをシフトしたり、これ全部を四肢が違う動作をやりますよね。これがまず、脳に刺激を与えるわけです。
岩貞:運転免許を初めてとったときに、何がなんだかわからないくらい脳を使いましたよね?
松田:使いましたよね?それでもまず、エンストするじゃないですか。だけど、だんだんエンストしなくなりますよね? これは脳が覚えて、進化しているんですよね。それと下肢を動かすって凄く大事なことで、よく言われるように、下肢の筋肉は第2の心臓だって。それはポンプ作用があるんです。ここの筋肉を動かすというのは凄く大事なことで、散歩するというのはそれと同じことで、下にたまった血液をもう一度上に汲み上げて身体全体で新しい血液を使い切りましょうね、っていう考え方ですね。そのために下半身が動かないのはよくないですよね。
岩貞:ATだと左足は放り投げたまま、という感じですよね?
松田:そうです。そういう意味からもMTがいいと。それともうひとつはメカニカルなことに頭を突っ込んでいくと、MTって軽いんですよ。部品点数が少ないでしょ?
岩貞:今、東日本大震災でクルマの製造が止まっているのはATのパーツが届かない。いろんなパーツが組み込まれているから、その部品が足りない。
松田:このATを制御した技術進歩って凄いものがあるんですが、もう一度、MTに立ち返ってみて、トランスミッションは軽量化が非常に困難なものなんですね。何故かというと、ギヤには耐久性が要求されるんで、鉄以外のもは使えないんです。軽金属、合金なんていうものは使えないんです。エンジンはアルミエンジンやスリーブだけ鉄を入れたりすることもあるんですけど、ギヤは絶対できない。
岩貞:重いわけですね。
松田:重いんです。それをDCTにしていくとかでさらに重くなる。部品点数も増える。オイルもいる、そのオイルを動かすポンプも必要と、いろんなものが必要になって重くなるんで、もう一度シンプルにMTに戻ってみませんか?
岩貞:そうすると、軽くなる。
松田:ドライバーは一生懸命動かすようになる。これがまたひとつ、老化を遅くする助けになるんですね。
岩貞:日々身体を動かす、特に下半身というのが大事なんですね。
松田:下半身は大事ですね。よく野球の選手がオフに下半身を鍛えるとスタミナが増えるので走りこみをしますよね。あれは血液は重力でどんどん下に溜まっていきますね。その下に溜まった血液にいろんな栄養とか酸素とかが含まれているとしたら、もったいないですよね。
岩貞:溜まったまま?
松田:ようするに上のほうだけ使っていて、溜まったままになっている。その血液を身体全体で使えれば、また一日が長くスタミナをもって過ごすことができます。そのためには筋肉が必要で、下半身の筋肉を鍛えること、あるいは下肢を動かすことによって血液をどんどん上げていく。だからサービスエリアで休むときは歩きましょうよ、散歩しましょうよ。ということなんです。
岩貞:今、震災で避難生活を余儀なくされている方も凄くたくさんいらして、みなさんどうしてもジッとした生活になりますけど、そういった方もちょっと動いていただくということですね。
松田:高齢者の方がおおいですが、できるだけ身体を作っておくというのも非常に大事なんですね。筋肉が増えれば、体温が上がるんですよ。そうすると免疫も上がるんです。だから、厳しいときにいろんな細菌やウイルスに耐える身体にするためにも筋肉をつけるというのは凄く重要なんです。
岩貞:いまからでも間に合いますよね。ですから、みなさん今からでも動いていただきたいです。あと、MTのいいところでは軽量化ということでエコにも繋がりますよね。
松田:まったくそのとおりで、日産マーチが軽量化を一生懸命したわけです。軽くなれば燃費もよくなるわけで、それを考えれば、軽量はMTを搭載すればエコに繋がるわけです。
岩貞:じゃ、これからはMT?
松田:ぼくは、絶対コレだとおもっています。贅沢するなって。(笑)
岩貞:環境のためにも健康のためにもスローエイジングのためには、これからはMTである。
松田:クラッチをきちんと踏むには、最初にいいましたように骨盤の上にちゃんとのっていないとクラッチが踏めないんですよ。そうすれば、アクセルとブレーキの踏み間違い事故もどんどん減っていくわけです。
岩貞:ウインウインな関係で、これからはMTを推奨していきたいと思います。