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第211回放送『世界の交通事情 スピードは善か悪か』


第211回


『世界の交通事情 スピードは善か悪か』


 

岩貞:津々見さん、先日石巻へ行かれたそうですが・・・・・・

 

津々見:AJAJといいまして、日本自動車ジャーナリスト協会が支援を行っておりまして、私のほかに6名で、三菱ふそうのキャンターハイブリッドを1台、日産セレナ、バイク2台をお借りして、水を配達に行ってきました。

 

岩貞:だいぶ物資が届いているとは言っても、十分にいきわたっているというほどでもない。

 

津々見:半壊の家とか、家が残って住める方とかには物資がまわってこないんですね。それで水を約400Lだったのですが届けてきました。われわれ日本人は一丸となって、復興できるまで応援したいと思います。

 

岩貞:それで、今回は被災地にはへクルマで入られたわけですが、そうやって物を人に届けるときに、道って大切ですよね。

 

津々見:キャンタートラックのサイズがまた、ちょうどいいんですよ。ハイブリッドで燃費もよかったですし。でも、まだ道がとてもバンピーでクルマが飛んじゃうんですね。危険もたくさんありました。

 

岩貞:津々見さんは海外へも随分と行かれていますが、日本と海外では道の使い方というのは違うものですか?

 

津々見:違いを感じますね。向こうの人たちは狩猟民族のハートがある、哲学があるんです。ですからスピードが大事だという哲学があるんですね。

 

岩貞:特にドイツはアウトバーン、速度無制限。

 

津々見:アウトバーンで距離が200kmぐらいあるところを1時間ぐらいで着いちゃうんですね。

 

岩貞:200kmを1時間ということは時速200km。

 

津々見:そう! それが可能なんですね。日本ですとだいたい2時間以上はかかるんですよね。アウトバーンを走るとすぐに着くので疲れがぜんぜんないんですね。ただし、200km/hというのはリスクが大きく、危険ですよね。何かあったら大事故になってしまう。だからマナーも非常にいいし、クルマの整備も大事だし、特にタイヤの整備が大事だなと思いました。

 

岩貞:最近エコブームになっていて、燃費のいいクルマになるとなかなかガソリンスタンドに行かなくなってしまって、タイヤの空気圧チェックがおろそかになり始めているという話を聞きました。

 

津々見:なるほど。200km/hで走っているときに、もしタイヤがバーストしたら「これ死ぬな」とおもっちゃうわけです。凄い恐怖感があるとともに、逆にタイヤの空気圧を気にしたり、タイヤの銘柄もしっかりしたものにしないと。ドイツではタイヤ銘柄が非常にうるさいんですね。法律でもしっかり決められていて。このクルマにはこのタイヤじゃなければダメだというように決まっているんですね。

 

岩貞:指定タイヤがあるということですね。

 

津々見:あるわけです。ハイスピードで走るかわりに、安全に対しては万全の措置がとられているなという気がします。

 

 

岩貞:あともうひとつは、追い越し車線とか速い車線を走っているときに、他のクルマがフラフラっとでてきて日本では怖いことがありますよね。

 

津々見:ホントに怖い思いをします。アウトバーンですばらしいと思ったのは、大型トラックは必ず走行車線を走っていて、ドイツですと右側が走行車線ですが、絶対出てこないんですよ。絶対に出てこないという安心感があり、また、80km/hをピタっと守っているんです。ですから、その横を200km/hですり抜けられるんです。でも、日本だとすぐ出てきますからね。もちろん、日本ではそんなに速度差はありませんけどね。向こうでは高速で走らせる代わりに、安全に走れる万全の対策がとられていて、そしてみんなのマナーがいいんですね。

 

岩貞:走るために全員が速さを尊重しているという感じですか。

 

津々見:確かに、私は日本の制限速度が低いので不満を持っていたんですけども、最近はエコ運転しなければいけないので、あまり高速なのは燃費が悪くなるからよろしくないとは思うのですが・・・・・・。でもね、ドイツでは標準的な速度が140km/hぐらいなんですね。200km/hの人というのは少ないです。10%いるかいないかなんですけど、50%~60%の人が140km/hなんです。で、この140km/hというのは一番精神的にも負担がなくて、しかもイライラもしなくて、安全に走れる上限のあたりかなと思うんです。ですから、日本もこれぐらいの速度で走らせてくれると嬉しいなぁと思うんです。

 

岩貞:エコだけじゅなくて、効率という側面も考えての速度設定ということですね。ところで津々見さん市街地でも違うんですか?

 

津々見:市街地でも違うんですね。これはカルチャーショックでしたね。例えば街から街への間の道路ですが、なんと対面通行ですが100km/hで走れるんですよ。

 

岩貞:速い速度ですね。

 

津々見:もうひとつ関心したのは、街の近くになると100km/hから順番に速度が落とされていくんですね。70km/hとか40km/hだとか。最終的には街の中は30km/hになるんですよ。それで、本当にみんな30km/hなんて速度を守るのか? なんて思ってみていたら、みんなピタっと守っているんですね。

 

岩貞:街中はお子さんが歩いていたり、人がいたりしますのでしっかりと30km/hまで落とすんですね。

 

津々見:でも速度を落として走っていても少しもイライラしないんですよ。というのは、そこを抜けるとまた100km/hで走れるというのがわかっている。だから、ぜんぜんイライラがないんですね。

 

岩貞:やはり、メリハリ?

 

津々見:メリハリなんですよ。コレがすばらしいですね。

 

岩貞:ドイツの人は市街地を30km/hぐらいで走らないと危ないということがわかっているんですね。それで危ないといえば高速道路の降り口。ここの速度指定もちゃんとしている。ちゃんとしていると言ったら失礼ですけど。

 

津々見:いや、ちゃんとしているんですよ。というのは、70km/hと書いてあるところで、「多少オーバーしてもいいだろう」と少し速めの速度で入ったんですね。そうしたら、もう曲がれなくて危うく事故るかと思いました。

 

岩貞:日本の感覚でいうと最大限安全を考慮した速度制限になっているので、40km/hと表示してあってももうちょっと出してもいいかな? という速度になっていますけども、ドイツの場合は違うんですね。

 

津々見:もう物理的に計算してあって、0.4Gで造られていると聞いています。0.4Gというのは、かなりコーナリングのGが強くてタイヤがギャーっているぐらいのコーナリング速度なんですね。日本の場合ですと0.2G以下ぐらいの速度設定になっているみたいですね。ですから、日本では凄くゆとりがあり、ドイツではゆとりがない。逆に言えば、ゆとりがないから速度を守るしかないんです。ですから結果的にそれでいいのかなぁという気がしますね。

岩貞:市街地という点で言うと、ドイツは自転車道が凄く整備されていますよね。

 

津々見:ドイツではね3つ道があるんですね。ひとつが歩道、もうひとつが自動車道、そして自転車道があるんですね。これが、最初は街中だけだと思っていたんですけど、郊外まで続いているのをみて感激しました。

 

岩貞:津々見さん走りに行きたいでしょう?

 

津々見:行きたいですね。自転車に乗りながら「ダンケシェーン」とか「アウフビーターゼーエン」とか言ってみたいですよ。

 

岩貞:ドイツでは自転車にきちんと市民権を与えて、自動車、自転車、歩行者それぞれがリスペクトしあいながら道を使っているということですね。

 

津々見:お互いがリスペクトしあいながら走る、というのが大事だと僕は思います。ですから、日本でも、私が自転車で走っているとき、危ないからと少しよけてくれる運転手さんがいるんですね。そういうときは手をあげて「ありがとう」という意思表示をするようにしています。ですからお互いに自転車に乗る人とクルマに乗る人、あるいは歩行者がお互いにリスペクトしあって、楽しく譲り合って道を走ってほしいなと思います。

 

岩貞:津々見さんは6ホイール生活をされているので、まさに実感されているわけですね。ドイツと日本ではマナーも含めてルールも違うと思うのですが、基本的に何が違うのですか?

 

津々見:ドイツの人たち、ヨーロッパの人たちは非常に合理的な考え方を持っていると思いますね。ですから、明快にルールを守るところは守って、お互いをスムーズにしたいと思っている。そして、速度が早いと短時間のうちにA点からB点に移動できて、余った時間で他の仕事ができるわけですね。例えば、200km離れたところに行くのにアウトバーンですと1時間で着いちゃう。でも日本の場合だと最低でも2時間以上かかる。つまり、欧州の人は1時間という余分な時間を仕事に使えるわけです。という合理性がありますね。これはスピードに対する考え方が彼らは善だと思っているんですね。狩猟民族ですから獲物を得るために馬で速く走っていって、早いほうが獲物をたくさん獲ることができるんですね。

 

岩貞:そういう方はモテますよね。

 

津々見:ところが日本では、狩猟民族ではないので、ゆるやかな時間の中ですごし、非常に情緒的な考え方。スピードに対しては少し、恐怖心をもっているのかなと思うんですね。伝統的にそういう生活に慣れてなかったので、スピードは悪だと考えているんじゃないでしょうか。

 

岩貞:となると、危険なものに対してどういうように取り組むか? というのがちょっと変わってきますよね。

 

津々見:まさにおっしゃるとおりで、欧州の人は狩猟のとき馬から落ちてケガをすることもあるわけですよね。ですからケガをしないように訓練もし、例えばヘルメットをかぶるとか、しっかり危険を防御したうえで、あえてやるんですね。でも、日本では、そういう危険なことはどちらかといえば、くさいものにはフタではないですが、危険なものはやはり避けようよ、という心情がどうも働いている気がしますね。日本人は逆にその細やかな、情緒的な非常にいいセンスもいっぱい持っている。それと合理的な精神とはチョット相反するところがあるんですけど、そこをうまくミックスしていければ、すばらしいカーライフスタイルが出てくるんじゃないかなと思うんです。より合理的にみんなでスムーズな走りができて豊かになるんじゃないかなという気がします。

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