【ホンダ】N-ONE試乗記 クラスレスで存在感たっぷりの洒落者 レポート:石井昌道
BMWミニやフィアット・チンクエチェントなどと同じく、過去の自社製品へのオマージュ的なモデルとして登場したN-ONE。1967年デビューのN360は、ライバルを上回るパワーで元気な走りをアピールしていたが、N-ONEにもその血は流れていた。
現在の軽自動車のターボ・エンジンは最高出力が自主規制の64PSで横並びなので、パワーで他を圧倒するというわけにはいかないが、フィーリングはことのほかスポーティなのだ。というのも、最近はターボラグなどの悪癖を感じさせないよう、なるべくNA的にスムーズな加速感を得られる方向へ躾けられることがほとんどだが、N-ONEはあえてターボ感が強調されている。
発進からほんの少しの間があってから、ブーストが高まってグーンと加速が強まっていく。頼もしくも落ち着いた走りを望むムキにとっては、あまり好ましい特性ではないかもしれないが、小さくてもキビキビと走るホットハッチ的なモデルに心躍る好き者ならば、思わず頬が緩んでしまうことだろう。CVTではあるが、エンジン回転が先にあがって後から速度がついてくるような張り付き感は少なく、程よいリニア感が得られているのもスポーティ。「MTがあったらいいだろうな」と無い物ねだりしたくなるのが本音ではあるが、CVTでもまずまずだ。
パワートレーンのみならず、シャシー性能もホットハッチ的だ。サスペンションはロール初期の段階からショックアブソーバーのダンピングがグイッと立ち上がり、安定感の高いハンドリングを実現している。N-ONEは全高が1610mmというトールボーイ・スタイルだが、それを忘れさせるほどだ。ワインディングを駆けめぐるのがこれほど楽しい軽自動車も、コペンが消滅した今では他にない。操縦安定性が高いだけではなく、ボディの剛性感がたっぷり感じられるなど軽自動車らしからぬところも随一。
ただし、ホンダ車の常でステアリング・フィールはやや曖昧だ。直進時のすわりはそんなに悪くなく、操舵力も軽すぎるというわけではないのだが、舵角が少し付き始めたあたりでフィーリングが掴みづらくなる。毎日乗って慣れてくると、これでも普通に思えてくるが、他から乗り換えるとちょっと違和感を覚えるのだった。
ハンドリングだけではなく、高速クルージングもN-ONEの得意科目。軽トールボーイは、街中での乗り心地の良さを重視したサスペンション・セッティングと背の高さによって、横風に煽られがちなことが多いが、N-ONEはビシッとしている。下手なリッターカーよりもよっぽど安定しているぐらいで、高速道路のロングドライブがまったく苦にならない。これも、ショックアブソーバーが初期からダンピングを効かせている恩恵、そしてライバル達ほど極端な軽量化を行わず、かけるべきところにはしっかり質量をかけている恩恵なのだろう。低速域での乗り心地はライバルに比べるとやや硬めにはなるが、それを補って余りあるメリットが得られている。
N-ONEのエンジニアは「他の軽自動車を主なライバルとして見ているのではなく、むしろフィット・クラスから乗り換えても満足いくように開発した」と言うが、その意味は乗ってみると納得がいく。軽自動車だから遅いんじゃないか? 軽自動車だから高速道路には向いていないんじゃないか? といった懸念に対して、「まったくそんなことはない」と断言できるだけの仕上がりだからだ。
さらに、そのデザインや遊び心はフィット・クラスまで含めた国産小型車のなかでは飛び抜けた存在。軽自動車なのに洒落者を気取れるのだ。そのクラスレスな感覚はミニやチンクエチェントに通じるものがある。これなら、軽自動車の生息率が低い都市部でも人気を呼ぶことになりそうだ。
< ギャラリー >
N-ONE ダーボ
N-ONE NA