【ジャガー】ジャガーXKR-S試乗記 スポーツカー好きの嗜好をよく知るブランド レポート:九島辰也
日本におけるジャガーブランドのイメージはいったいどんなものだろう? 多くの人は「高級車!」と答え、いつかは手に入れたいという思いを頭の中で描くかもしれない。販売台数はドイツ製高性能車に遅れをとっているが、XJシリーズに代表されるそのステイタスの高さはいまなお顕在だ。
ただ、このブランドの歴史に詳しい者は、違う印象を持つかもしれない。「ジャガーは今も昔もスポーツカーメーカーである」、と。
歴史の扉を開けばそれは明白な話である。1927年にリリースされたオースチン•スワローはベースとなるオースチン•セブンよりずっと速かったし、戦前のSS100もXK120もスポーツカーとして名を馳せた。そしてそのイメージを確立したのは1950年代のル•マン24時間レースにおける輝かしい成績だ
XKシリーズをベースとするCタイプ、さらには市販車Eタイプの礎となったDタイプで何度もポディウムに上った。振り返れば、1951年にCタイプをル・マン24時間レースで優勝させながら、一方でマーク7をアメリカで大量受注してたりもする。
そんなジャガースポーツの復活ともいった意味合いで、ノロシを上げたのがこのXKR-Sである。2011年ヨーロッパでリリースされ、日本でもすでにデリバリーを開始している。2012年9月のパリオートサロンで発表されるFタイプもあることから、その呼び水としても価値ある存在といえるだろう。
ではその詳細だが、ご想像のとおりこいつはXKRをさらにチューニングすることで生まれた。エクステリアは空力的に洗練され、エンジンもスープアップされている。具体的にはスーパーチャージドされたV8型ユニットは510psから550psとなり、最大トルクも680Nmを発生させる。数値だけでも、もはやド級のスポーツカーであるばかりか、スーパーカーの領域に達している。
しかも、XKRと同じ1810kgという車両重量であることがジャガーのこだわりを強く感じる。早くから市販車にアルミニウムを取り入れてきた彼らだけに、クルマを速く快適に走らせるために軽量化は重要であることを熟知しているのだ。今回アルミニウムボディ構造は当然のこと、足回りにもアルミを投入した。同時にキャンバーの剛性アップも行われている。それがそのままハンドリングに好影響を及ぼしているのはいわずもがなだ。
では、実際にステアリングを握った印象だが、低速域での乗り心地はやはりイメージ通り固く、XJサルーンに代表される快適な乗り心地を思い浮かべると別物といわざるをえない。20インチのロープロタイヤもバネレートの上がったスプリングや減衰圧の高まったダンパーも、スポーツカーの方向へ向いているのは明らか。
ただ、不思議なことにスピード域が上がると、ゴツゴツしたところは思いのほか納まり、フラットライドを印象付けられる。特に路面のいいところではまるでサルーンのような乗り心地に拍子抜けしてしまうほどだ。
そしてコーナリングではそこにいわゆる“ネコ脚”的要素が加わる。太いタイヤが強引にグリップを勝ち取るのではなく、ヒラリヒラリとコーナーを駆け抜ける。この辺のセッティングはまさにジャガーネスといったところ。これだけレーシーに振っていても単にガチガチに固めた足とは次元が違うのだ。最近でいうとマクラーレンMP4-12Cがこれに近い気がする。
そんなXKR-Sを走らせていて心踊られるのはエキゾースト音。ダイナミックモードでは排気フラップが作動し、まさにレーシングカーのようなサウンドが鳴り響く。また、それと同時にツインカムユニットからもしっかりエンジン音がドライバーに伝わってくる。高回転型カムシャフトが仕事している様はじつにいい感じ。テイスト的には少しオールドスクールで、60年代風レーシングカー的な匂いがする。イタリアンエキゾチックカーの乾いたサウンドもいいが、個人的にはこちらの方が好みだ。なんとなく、「大人の遊び道具」といった色合いが強い。
この他では赤いキャリパーを有するブレーキシステムも注目に値する。最高速度300km/hというエンジンパフォーマンスをねじ伏せるだけのストッピングパワーの持ち主であることは走り出してすぐにわかった。フロントにツインピストン、リヤにシングルピストンのキャリパーと大型ディスクが備わり、ガツンと効果を発揮する。これだけの容量があればアクセルも遠慮なく踏めるってもんだ。
今回の試乗車はフレンチレーシングブルーというボディカラーであった。この他にイタリアンレーシングレッドやアルティメットブラックなんかも用意される。このクルマならではの限定色が多いのも魅力のひとつ。個性を強く感じる。しかも、エンジンサウンド同様、どこかオールドスクールなのがまたいい。まさに世界中のレーシーなオヤジの心にササる仕上がり。さすがジャガー、スポーツカー好きの嗜好をよく知っている……。
レポート:九島辰也
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