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第220回放送『ニュルブルクリンクの秘密』


第220回


ニュルブルクリンクの秘密

石井:みなさ んこんにちは、今週はパーソナリティの岩貞るみこさんに代わり、石井昌道がお送りします。そして、今日は来週に迫りましたニュルブルクリンク24時間耐久 レースについてお伝えします。このレースにはコメンテーターの桂伸一さんが、なんと!アストンマーチンのワークスドライバーとして出場することになりまし た。おめでとうございます。

 

:ありがとうございます。

 

石井:去年は出ていなかったんですよね?

 

:え、ええ、まぁ、お休みでした。1回お休みして3度目のアストンです。

 

石井:さらに、今週はスペシャルゲストとして、ニュルといえばこの人、スバルテクニカインターナショナル(STI)の辰己英治さんにも来てもらっています。辰己さんよろしくおねがいします。

 

辰己:宜しくお願いします。こんにちは、辰己です。

 

:あの〜、辰己さんといえば、初代レガシィをはじめインプレッサ、フォレスターのSTIバージョンという高性能なモデルを開発されているといことで、スバルファンには説明するまでもないですけど。

 

石井:神様みたいな存在ですかね。僕ら自動車業界の人間にとっても、いろいろ教えていただけるエンジニアの方ということで有名な方ですよね。

 

:僕は実際教えてもらいましたけどね。

 

辰己:ニュルブルクリンクについては富士重工の時代からですから、何十年も走っています。ですからいろいろ、今日は楽しい話ができたらいいなぁと思っています。

 

石井:ということで、今日はこの3人でお届けします。さて、そのニュルですが、桂さんは結構走っていますよね?

 

: まぁ、この業界でいうと走っているうちには入らないおこちゃまなんですが、一周22km強あるコースで、そのコースの内側に村が3つ4つあるような大きさ で、例えば日本でいうと、関東ですがターンパイクと伊豆スカイラインをつなげて一周ぐるっとまわれるような山岳コースですね。

 

石井:普通、サーキットは4kmか、せいぜい長くても5km、6kmですから5倍6倍の広さがあるということですね。

 

:そうですね。え!こんな急坂?こんな見えないとこ?とか、最後のストレートは3kmあるんですが・・・・・・

 

石井:3km?!じゃ、完全に最高速に達しますね。クルマも大変そうですね。

 

:だから、そこで鍛えられたクルマというところでね、辰己さんに振るわけですよ。

 

石井:クルマ業界の人間はニュル、ニュルと騒ぎますよね?レースもそうですけど、自動車開発の聖地ともいわれています。なんでニュルなんですかね?

 

辰己:あ の、クルマを造るとき、どうしてもテストコースで造ると。普通の人はそう考えていますよね?まぁ、当然そうなんですけど、自動車の専用テストコースですか ら、さぞいいテストができているだろう、というのを普通考えますよね。ところが、テストコースに入り浸っていると、外の世界がだんだん見えなくなってしま うんです。

 

石井:引きこもりになっちゃう?(笑)

 

辰己:何が見えなくなってしまうかというと、お客さんが走っている道路を忘れがちになっちゃう。お客さんは高速道路だったり、先ほどのターンパイクだったり、いろんな峠だったり、というところを走っているのに、テストコースというのは人工的なテスト場なんですね。

 

石井:なるほど。

 

辰己:日本のメーカーがニュル、ニュルと騒ぎ出したのは、まだ20年〜30年なんでが、ところが、ニュルブルクリンクというのは昔から一般道路が20何キロのコースとして存在しているという場所なんです。

 

石井:なるほど。

 

辰己:そこに一般的な交通ルールはないんです。最低限のサーキットルールはもちろんありますけど・・・・・・そういうテストコースというのが、日本国内にはない。それは日本に限った話ではなく、グランプリサーキットといわれる場所にはないんです。あまりにも整備されすぎている。

 

石井:路面がキレイすぎるということですか?

 

辰己:そういうことです。それが、ニュルというのは道路なんです。道路の延長線上で、そこに各メーカーが集まって、そこでテストをする。そんな場所なんです。

 

石井:確かに僕らも、発売前のクルマをテストコースで乗らせてもらうことがあるんですが、実はそこで感じたことと発売後に道路で乗ってみると、なんか違ったなぁ? って思うことがあるんですが・・・・・・

 

辰己:けっこう違うんですよ。

 

石井:それをニュルで走っているとピッタリと合うものができるということなんですよね?

 

辰己:かなり近いものにできるんです。

 

石井:それとニュルにはいろんなメーカーが来ているんですよね? スバルで走っていると、ポルシェがいたり、レクサスに遭っちゃうとか、そういうこともたくさんあるんですよね?

 

辰己:あ りますね。いろんなクルマの、いろんなテストもできるし、確認もできるからニュルに行きだしたんですが、私も30年近くニュルに通うようになって何が一番 勉強になるかというと、他のメーカー、世界の基準、世界のメーカーは今、何をしているのか?というのが見えちゃうんでうすね。

 

石井:なるほど、なるほど。

 

辰己:ス バルのテストコースでやっていると、スバルの状況しかわからないんですね。当然ですけど。ところがニュルに行くとポルシェもベンツもBMWもオペルもみん なテストしているところを、間近で見られる。かれらは何を目指して何をテストしているのか?というのがなんとなく分かる。やっぱり、同じ世界の人間ですか ら、分かるわけです。彼らはこういう安定性とか、こういうハンドリングをめざしているんだなきっと、ってね。

 

石井:それは、動きとかでわかるんですか?

 

辰己:いや、積んでる計測器もあるから、あ!こういうのを計りたいんだというのが見えたり、ちょっと新しそうなのが見えたりすると、ウチのインプレッサも結構速いから、追いかけちゃうわけですよ。

 

石井:レースになっちゃう?

 

辰己:テストをしているふりをして、その動きをちょっとみちゃおう、って。クルマのカタチを見るとかではなくて、走りを観察しちゃう。

 

石井:あ〜、フロントのスタビリティを重視しているな? とか?

 

辰己:そうね。だから世界の自動車メーカーが何をしているのかが、間近で見られるすごい場所なんですね。

 

石井:逆にニュルにいないと遅れちゃうということになりますね。

 

辰己:そ う! まったくその通りで、あそこに行かないと世界のクルマはどうやって造られているかとか、例えば、ポルシェパナメーラも5年6年も前から実際に走って いる姿を見ていたし、その凄さを見ていた。で、今は普通にナンバーついて走っていますけど、そういうのを間近で見てくると、われわれもいいクルマを造らな いといけないなという気持ちになるんです。自動車メーカーの技術者というのはそういう気持ちになるんです。

 

: 昔ね、辰己さんとレースをやっている頃聞いたのが、初代レガシィをニュルに持っていって、日本から来ているクルマだからあまり鼻もかけてくれなかったけれ ど、あるとき、ポルシェとクルマを換えて交代で乗ったら、レガシィのそのスタビリティとか4WDのシステムとかよくできているなぁ、って驚いていたという 話を聞きましたね。

 

辰己:え え、そういうこともありましたね。また、こういうこともありました。ポルシェのドライバーが私の横に乗せてくれっていってきたこともありましたね。インプ レッサが随分元気に走っているなと。それで「ちょっと横に乗せて」って。それは同じ職業人として、あ〜どうぞって。で乗せて走ったことがあったんですけ ど、そのとき、「これはもしかしてポルシェよりコーナリング速くない?」なんて、お世辞半分でしょうけど、言っていたこともありましたね。

 

石井:辰己さん、ニュルで鍛えていくと具体的にはクルマはどう変わっていくんですか?

 

辰己:例えば、テストコースでテストをします。それはテストになりすぎちゃうんですね。ところが、お客さんはハンドルを切らされるんですね。

 

石井:切らされる?

 

辰己:切らされるんです。コーナーが出てきたらハンドル切りますよね、ところが、テストコースではテストドライバーが自分でハンドルを切っちゃうんです。

 

石井:あ〜〜

 

辰己:つ くっちゃうんです。自分で走っているシュチエーションをつくっちゃうんですね。例えばブレーキを踏みますね、イチ、ニ、サンで踏みますよね?ところがお客 さんは前のクルマが減速したからブレーキを踏まされるんですね。信号が変わったからブレーキを踏まなきゃ、青になったら加速しなきゃですよね。

 

石井:なるほど

 

辰己:一般ドライバーは全部受身なんです。

 

石井:その精神的なところがまったく違うんですね。

 

辰己:テ ストコースでそれを想像しながらやるんですが、難しいんです。けっこう難しいんです。何十年もやってきたんですが、間違っちゃうんです。それでハンドルを 切ってみると、「あ〜効きがいいとか効きが悪い」とか自分で判断しちゃうんですけど、それは道路じゃないから。道路だと「お!急カーブだ」というときは切 らされますよね、その時にハンドルが効くかどうかなんですよ。

 

石井:あ〜はいはい。なるほど。

 

辰己:ブ レーキもそうなんです。ブレーキも自分はブレーキを踏みたくない。だけど前のクルマが踏んだから、自分もブレーキを踏むしかない。そういう受身のときにク ルマがどう反応しますか?というのがいいクルマ、悪いクルマの分かれ道になってくるんですね。テストコースでいいクルマができました。それがお客様の手元 に渡ったときにいいクルマですか?というと必ずしもそうではない。で、ニュルはみんなが走っている。前にも、横にもいる。後ろからも追い越してくる。

 

石井:占有ではなくて、いろんなクルマが走っているということですね。

 

辰己:い ろんなメーカーのクルマがたくさん走っているので、道路も20数キロあるからコースも簡単には覚えられない。それとか、邪魔がいてよけたりとか、道路がい つも生きているんです。ドライバーの感じ方では、いつもなれているテストコースで感じるのとは違うんです。やっぱり走っていいもの、いいものを追い求めて いく姿が自然とできてくる。

 

石井:なるほど、精神的にも違うということなんですね。

 

辰己:違うんですね。

 

石井:コースの高低さ、Gが違うとかそういうこともあるんだけども、ドライバーにとっても、お客さんに近い気持ちで走れるということなんですね。

 

辰己:私も実は40数年この仕事をやってきたんですが、ほんとにいいクルマを造るには、お客さんってなんだろう?っていうところから始まるんですね。

 

石井:なるほど。

 

辰己:そ れには、やはりテストコースで引きこもると、間違うこともあったかなぁ(笑)なんて反省も実はいっぱいしているんですけども、そういう反省をしてだんだん と・・・・私も還暦になったんですけど、そうした経験を踏んでやっと一人前のテストドライバーになれるんじゃないのかなぁなんて思いますね。

 

石井:え〜長いですね。

 

辰己:長いんです。いろんなことが若いうちからわかることがあるんですけど、お客さんって何だろうとか、お客さんは何を求めているんだろうとか、自信を持って言えるようになるには結構な年数を要しますね。

 

 

石井:桂さんもそのへんって。ニュルを走ってきて分かったことってありますか?

 

: あの〜、初めて出てから3回目までは国産車で出ていたんですけど、その国産車で飛んだりはねたりしながら一周まわってくるのに、怖くってしょうがない部分 がいっぱいあるんですよ。ところが、ポルシェだ、BMWだ、に乗っているプレイベーターにシュンシュン抜かれるんですよ。

 

石井:プロの桂さんがアマチュアのプレイベーターに?

 

: ともかくドライバーの技量の差だとか、切れ方の違いだとか、度胸の違いだとか。だと、思っていたわけですよ。でその後に、初めてアストンマーチンに乗って みたら、まぁ、これがその荒れた路面をなめるように、決して硬くないんですよ。ロードカーのようにサスペンションは上下に動きながら、でもボディはフラッ トに保って走るんです。そうやって走っていくと、いままで怖かったところがまったく怖くないわけですよ。で、ポルシェだBMWだ、に抜かれていたところも 確かに同じラインで入っていけるようになるんです。ハンドル切ったらドライバーが自然に行きたい方にスッと曲がっていく感じがね・・・・・・STIは一緒 だなぁ、なんてちょっと思いましたけどね。

 

辰己:こ のニュルのコースは1929年にできたという話がありますが、第二次世界大戦より前からあるんですね。そのころの日本ってほとんどクルマはないんです。ト ヨタがトラックを造っていたぐらいで、日本車なんてないんです。その時代からクルマを造ってきた歴史というのか、その積み重ねというのか。先ほども言いま したけど、テストコースでクルマを造るというのは、そのころは立派なことだったんですね。テストコースを日本でも作ったわけで。これがニュルのようなコー スが日本にはないので、日本のメーカーは遅れたんですね、きっと。で、最近は、私が考えたことは当然、日本のメーカーの方は考えていますからニュルに行っ たり、お客さんに近い環境でのテストをするようになってきているんですね。ようやく日本もニュルに行くようになったんです。ですから、だんだんと追いつく んですけど、まだ、欧州の100年の歴史にまだ、日本車は十分に太刀打ちできていないかも? しれないですね。そこが、桂さんがアストンマーチンに乗って 「これはすごい」って感じたのはそういうところかな?って気がしますね。

 

 

石井:なるほど〜(ため息)。ちょっと残念ですけどね。日本のクルマももっともっと良くなってほしいと思います。

 

辰己:まだまだ、これからは良くなっていくと思います。

 

石井:いよいよ24時間レースのほうは来週に迫りましたけど。STIの今年の目標は?

 

辰己:私 としては出る以上は優勝を目指すしかない。といつも思っているんですね。欧州車に日本車はいろんな面で、まだかなわないところがあるんです。全部じゃない んですけど、やっぱかなわないところがあるんですね。スバルだって40年50年のクルマ造りの歴史しかない。向こうは100年造ってきているんです。この 差を一揆に埋めることは簡単ではないんですね。だけど、レースに出る以上私は5位でいいですとか、3位でいいんですとかはないんです。野球の監督と一緒 で、監督としていく以上、日本という看板を、スバルという看板を、STIという看板を背負っていく以上はもう、優勝しにいきます。要するに勝ちにいくとい うことで、目標としては変わらないです。

 

石井:なるほど、分かりました。では最後に辰己さん、辰己さんにとってニュルとは?

 

辰己:今 は、レースにSTIとして出ているわけですが、日本車があまりレースに出ていない。なんとなく欧州車の戦う場になってきている。欧州車だけに戦わせている のは悔しくて、やっぱり、スバルファン、STIファンに、そして日本車ファンに、日本車も戦っているんだという姿を見せたいんですね。夢と希望ですね。欧 州車だけで戦っているというのが、気に入らない。最初は東洋からきた奴らだと見ていたけど、回数を重ねると最近は認められつつあるし、最終的には日本車で もちゃんと勝てるんだ、日本車でも戦えるんだ、というところを日本のファンに、スバルファンに私は見せたい。戦いたい。ということですね。

 

石井:日本のクルマファン、みんなで応援しましょう。桂さんもがんばってくださいね。

 

:あれ、随分簡単だね。(笑)

 



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