【シトロエン】DS5試乗記 ハマってしまうシトロエンらしい魅力たっぷりのモデル レポート:石井昌道
ここのところ、自動車業界はあまり元気がないと思われがちだが、じつは輸入車は好調だ。2011年に対前年比で13.1%の伸びをみせたのは東日本大震災の影響で日本メーカーの供給が遅れたからだという声もあったが、2012年に入ってからも1月~6月で前年同時期で24%増。販売台数は1990年代のレベルには達していないが、日本の市場が小さくなっていることもあってシェアは過去最高となっている。
シトロエンDS5は、そんな輸入車の好調ぶりがさもありなんと思わせる筆頭ともいえる存在だろう。低燃費で低価格というような世知辛いことでしか価値が認められない日本車ではとうてい真似できないような強烈な個性など、純粋な機能以外の部分の付加価値に「これならお金を払ってもいい」と思わせるからだ。
まだまだ10%以下の少数派だとはいえ、輸入車のシェアがあがってきているのは、成熟している日本の自動車ユーザーにとって、日本車がつまらなく映っているからだろう。
シトロエンにはC3からC6という一般的なモデルが存在するが(それでも十分に個性的だが)、それとは別にプレミアムモデルとしてDSラインを展開している。最初のDS3の日本発売は2010年5月、DS4は2011年9月、そして最新にして現状でトップモデルのDS5がこのたび登場したということになる。
DS3がC3、DS4がC4に相当しプラットフォームも共有化しているが、DS5はC5ではなくC4をベースとして大型化している。そのためボディサイズはC4とC5の中間。価格もDS4よりは高いがC5よりは安いという微妙な立ち位置になっている。
サルーンでもステーションワゴンでもクーペでもない、とシトロエンが表明している通り、既存のジャンルに分類するのが難しいのがDS5の特徴を表している。「独創と革新」というシトロエンのフィロソフィーを地で行っているのだ。
日本仕様のパワートレーンはすでにプジョー・シトロエン・グループではお馴染みになっている1.6L直噴ツインスクロールターボ(BMWと共同開発)にアイシンAW製の6速トルコンAT。本国ではディーゼル・ハイブリッドが目玉であり、フランスのフランソワ・オランド大統領が公用車として選んだとして話題になっているが、今のところ日本導入の発表はない。
C4ベースで400万円ということは、付加価値の部分に約100万円のエキストラコストがかかっていることになるが、実車を目の当たりにすると、それもうなずけるだけの存在感がある。彫刻作品のような立体的な造形。ヘッドライトからBピラーまで伸びるクロームのサーベルライン、凝りに凝った各部ディテールなどエクステリアだけでも十二分にインパクトがあるが、インテリアはさらに強烈。インストルメントパネルはやはり立体的な造形であり、航空機を意識したコクピットは包み込まれるような雰囲気。外寸から考えれば決して広くはなく、日本の軽自動車的な感覚からいえばスペース効率に優れていないことになるが、逆にそれが心豊かになるから不思議だ。
操縦桿風のステアリングホイールや、ズラリと並べられたスイッチ類も特徴的だが、それ以上に独特なのがルーフ。運転席、助手席、後席にそれぞれガラスルーフが用意される三分割となっており、センターにはやはりスイッチを多用するコンソールがある。用途を考えると、スイッチを沢山造りたかったがためのスイッチもあるように思えるが、手をあげて頭上でちょこちょこと操作するのは確かに航空機風であり、子供の頃にパイロットに憧れた想いを彷彿とさせる。高級感のあるアナログ時計や各素材の質感の高さなど、見て触れるたびに満足度はあがっていく。もうここまでで100万円の価値を十分に感じるのだ。
走り始めてみると、パワートレーンは勝手知ったるものなので新鮮な驚きはないものの、1.6Lの排気量で1420kgの車両重量を軽々と走らせることには相変わらず感心させられる。発進の一瞬に間があり「レスポンスが?」と思うこともあるのだが、一度走り始めてしまえば低回転・大トルクの威力を発揮して大排気量NAのような加速を披露する。
DS4はMTかシングルクラッチ式の2ペダルだったため少々癖があったが(近いうちにATも追加されるそうだ)、DS5は普通のATなので何の違和感もなく走ってくれる。ただ、フランス車の好みなのか、比較的高回転を保とうとするセッティングのようだ。もっとも、それが日本の街中で走りづらいという悪影響を及ぼしているわけではなく、適度にスポーティで活発な印象をもたらしている。
シャシーは、低速域ではわずかに硬さがあったものの、それはタイヤがゴツゴツとするのと、まだ走行距離1000km程度でサスペンションにアタリがついていないからだろう。40km/h~50km/hもだせばスーッと落ち着いていき、比較的に長めのホイールベースとシトロエンらしいストローク感のあるサスペンションによって快適な乗り心地をみせる。
ワインディングでペースをあげていくと、シトロエンらしさがさらに濃厚に感じられることになる。ハードなブレーキングやコーナリングなどでは意外なほどロールやピッチングを見せるが、それでもまったく不安感がない。踏ん張って安定させるのではなく、タイヤをギュッと粘っこく路面に押し付け、グリップを引き出す感覚だ。
ストロークが深くなればなるほど粘り感が出てきて頼もしい。そのため荒れた路面に強く、何があるか予測がつかない公道のワインディングでは抜群の安心感を醸し出している。高速道路主体ではなく、ワインディング比率も高いロングドライブでは、こういったシャシー性能は大いに力を発揮するだろう。DS5の価値はデザインだけではなく、どこまでも走り続けたくなる走行性能にもあるのだ。
フランス車は、一度ハマると抜け出せないと言われているが、DS5に乗るとそれも納得できる。刺さらない人にはまったく刺さらないかもしれないが、虜になったらずっぽり。輸入車強しの背景には、単なる道具という以上に、人を魅了する力があるのだ。